ゆるされること(1)


実は私には、レイプされた過去がある。

ずっと、書きたいような書きたくないような気がしていたけれど、
このことについて、とあることから、
とても救われる思いになったので、書き留めておこうと思った。

そのレイプは、数日前の記事で書いた「ある人」から受けたものだ。
以前のブログでも「殺したいと思った相手」として書いている。

それはレイプと実証されにくい状況での出来事だったし、
彼から日常的に暴力を受けていたことや
私生活を監視され、毎日1・2時間しか眠れない状態を数ヶ月も強いられて
思考能力が麻痺していた私は、
恐怖心から、抵抗したり、逃げ出したりすることが出来なかった。

少女が監禁されるなどの事件では
被害者が、客観的には逃げ出せる状況にあるのに、
犯人の命令以外の動きができなくなってしまう...。

私には、その心理がよく分かる。

それどころか、何とか暴力や暴言を受けまいとして
相手の気に入るようにさえ行動しようとする。
私は二人きりになると、彼に殺されるという恐怖から、
苦痛に耐えながら、望んで抱かれる振りまでしていたのだ。

だから、レイプだと主張しても 誰も信じてはくれまいという気持ちでいた。

それに、そのような状況に身を置いた自分が愚かだったことは誰に言われるまでもない。
自業自得でそんな目に遭ったのだし、
私の側に、その状況を容認してしまうような態度をとった事実がある以上、
訴えるなどはできないと思った。
その人から離れてもなお、しばらくは恐怖支配されていたことも大きかった。




夫の不貞を知ってから、
私は、
自分がかつて、自分の体を粗末に扱ったから
そして、私を犯した彼の、妻であった人を 間接的に苦しめたから
こんな罰があたったのだと思った。

そして、私を苦しめた彼と同じように、
夫が、私と同じ性であるひとりの女性を
自分を慰めるための人形のように扱えることにショックを受けた。


レイプ犯は、肉欲を満たすために相手の体を見るが、相手の人格は認めない。
被害者の心の傷は、人格を否定されること、人格を殺されることだ。
その意味で、ある種の不倫は、レイプに似ていると感じた。

夫にそこまでの意識はないはずだし、
不倫とレイプを結びつける人なんていないかも知れない。
この思考回路は、私自身が被害者だからだろうか。
今でもこの思いは、少しではあるけど、くすぶっている。



夫の告白から数ヶ月経ったある日、不貞の話題から口論になり、
興奮した夫の口から 「君だって、同じ事をした」 という言葉が出たとき
目の前が真っ暗になった。


私「......同じってどういう事?」

夫「だって、君は逃げなかったし...」


それから数日間、私は口がきけなくなった。
のどが締め付けられ、言葉が出なくなってしまった。


まわらない頭で必死に考えた。



13年前......
私をレイプしたあの人から離れたとき、
私を迎え入れ、生活をともにしてくれた夫に、私は事実を話した。
別れるつもりで話したのだったが、夫は私を受け入れてくれた。


あの日から、私は、夫に償いの気持ちで尽くしてきた面があった。


けれど、13年前のあの日、私は多くを語らなかった。
夫は、私がどんな状態にあったのかをよく知らないままに、私の告白をさえぎった。
そして、「俺は過去にこだわらない」と言い、それっきり、詳しいことを知ろうとはしなかった。
耳を塞ぎたかったのだろう。
聞くことが耐えられなかったのだろう。
私を憎みたくもなかったのだろう。

それからしばらくは、「あの男をどうやったら殺せるか...」と考え込んでいた。
私がそれを止めたことで、夫はもしかしたら、
私が望んで彼に抱かれたのだ、との思いを、強くしてしまったのかも知れない。




3年前......
ふとしたきっかけで、私はあの男を「許せる」と思った。
その心境を夫に話すと、夫が鬼の形相になって叫んだ。

「ゆるす!?ゆるすなんて簡単に言うな!!!
 俺は今でもあいつのことを考えるとハラワタが煮えくりかえるんだ!!!
 俺はずっとあいつを殺そうと思ってきたんだ!!!」



10年かけて、夫は憎しみを燃やし続けていたのだ。
直接の被害を受けた私よりも強く、長く。
そして、このときの夫の怒りは、あの男へのものでありながら、
まっすぐに私に向けられていた。


夫の目を見た私は
「あの男に抱かれた私を許せないんだ...!」と悟った。


あの男をゆるしてしまえる私をゆるせないんだ。
私があの男を憎み続けている限り、夫の心のどこかが、安定していたんだ。




去年......
夫の不貞によって、私はボロボロに壊れ、
何故こんなことになったのか、執拗に夫に迫り、
勇気を出して、死にたいほどの苦しみを全身で表現し、夫の前にさらした。
夫の不条理な行動を理解したくて「何故」を繰り返した。

夫は私のそんな行動に

「俺はそんなことはしなかった」
「俺は辛くても聞かなかった」
「一緒に居ることに決めたから言わなかったんだぞ!それなのに君は...!」となじった。


......




私は、13年前、短い言葉ひとつで、夫に理解してもらえたかのように、錯覚していた。
それは、経るべき過程を経ずに楽になりたいとの、
身勝手さから生まれた勝手な思い込みだった。

夫は、疑問や葛藤がありながらもそれを隠して、真実を私の口から聞こうとしなかった。
私を許し、受け入れることは、「何も聞かない」ということだと信じていたのだ。


だけどそのことが、夫の中での時を止めてしまった。


私がちゃんと話さなかったからだ。

言いにくいから、話すのが辛いからという理由で。

自分の落ち度を追及されるのを恐れたのかも知れない...。

そうだ、私は、考えてみたら、きちんと話していない...!

だから、夫が「俺の不貞と同じこと」と捉えているんだ。




数日後、私は意を決して伝えた。


13年前のことを。
今でも忘れることができないあの地獄を。
たぶん、何を聞かれても、昨日のことのように答えることができるであろうあの光景を。
あなたにとっては、自分の不貞と同じことなのかも知れないその中身を。
どんな状況で、どんなことをさせられたのかを...。

話さなければいけないと思った。

夫はあの出来事のために...、
あの出来事について口にできないばかりに、苦しんできたんだ。

私がどれだけ苦痛だったのかを、話さないで済ませたばかりに、
夫は、無用な嫉妬心を心のうちに飼ってしまったのだ。

だからといって、不貞していいわけではない。
ほんとうは、あの出来事と不貞は結びついてはいない。
夫が不貞した言い訳をしようとして口がすべったのも分かっている。

だけど、夫の心のある部分が、「知ること」によって救われるはずだ。


嗚咽がまじり、顔が歪んだが、私は話しつづけた。
すべてを話してしまおうと決めていた。



「もう、いいから...。」

夫がうなだれた。

「もう、いいんだ...。もう、そんなこと、話さないで...。
 知らなかったからさ、俺...。そんな風だったなんて...。
 悪かった。そんなことされたなんて、知らなかったから...。」


私は夫を追い詰めたのだろうか。
夫の顔は、思いつめていた。
私の肩に手を置いて、休ませようと体で促した。


「悪かった...。」


それ以上言葉が出ないようだった。

二人とも、放心状態のようになった。





良かったのか悪かったのかは分からない。
だけど、夫の胸に巣食っていた複雑怪奇な嫉妬心という化け物は
それ以来、暴れてはいない。

私は、真実を伝えることで、
夫の、あの男への憎悪が増すのではないかとも思った。

だけど、リスクを超えて、直感に従って行動した。
そのことで、二人ともが 何かを捨て、何かを得たと思う。

夫には、私の理解を超えた、男性特有の嫉妬心とでもいうものがあるのだと
どこかの時点で私は気づいたのだ。
それは今でも、私にとって理解できない感情だけど、
その嫉妬心は、自分の大切な人を犯された、という苦悩を上回るものなんだと感じたのだ。

大切な人を犯された、という苦しみも、きっと果てしなく大きいものだとは思うけれど
私が喜んで抱かれたのだと想像することの方が、
きっと夫にとっては苦しいことだったのだろうと思う。
そして、そんな自分を表現することもまた、夫にはできなかったのだろう。

当事者である私には、辛い部分もあるけれど、
13年前に、夫から思いをぶつけられていたら、私自身、耐えられたかどうか分からない。


だからこれで良かったのだ。


夫は自分の中の悪魔と、13年も戦いつづけてきたのだ。

そして私も、13年経ったから、話すことができたのだ。



13年ごしに、吐露し、涙することを、ゆるされたのだ。
[PR]
by marca-mia | 2005-12-26 03:34 | 思うこと・自分


<< ゆるされること(2) 出し惜しみ >>