被害者=傷ついている人(2)


小学5年生のとき 同級生のS君のお母さんが亡くなった。
私はただ 病気で亡くなったということしか知らず
S君にかける言葉も知らず
S君自身、普段と変わらない様子だった。
変わらず接してもらうことがS君の望みだろうと思っていた。

ある日、クラスメートの誰かの家で集まって遊んでいたときのこと。
(S君のお母さんが亡くなってから、半年程経っていたように思う。)







私とS君は、あるゲームをしていた。
S君が、あからさまなズルをした。

「ちょっと~!ダメだよ!ズルいよ!」とつっこんだ私。


「いいじゃんか」
「ダメだよ~!」
「いいじゃんか」
「ダメだってば!」

「...だって、僕お母さんいないんだもーん。」


「!」幼い私は、頭から火を噴いた。

「......それとこれとは関係ないでしょ!やり直してよ!」


「......わかったよ。」



少しの沈黙のあと、彼は私の言葉に従った。
何ごとも無かったように、ゲームはつづけられた。



<あの時の彼の口調...目線...>


冗談めかして、わざわざ哀れな自分を装っているんだと 言い訳するような...。
それでいて こちらの反応を ある期待を持ってうかがうような...。




<私が感じた怒り...>


反則だ!反則だ!S君は反則をした!
ゲームのルールのことじゃない。
誰もが困ってしまうような切り札を、こんなくだらないことに使った!
亡くなったお母さんという大きな存在を、こんなことに利用した!
嫌だ 嫌だ なんだかものすごく 嫌な気分だ。





あの時も 今も 私に分かるわけはない。



皆には、いて当たり前のはずの「お母さん」が、自分にだけいない。
何の罪もない自分から、大切な母を 突然奪っていった 悪夢のような現実。


どんなに仲の良い友達だろうと、理解不能な感覚...。
どれだけ、何度、感じたのだろう。
もがいても もがいても 受けとめきれない喪失感を...。


家族は 誰もが傷ついている。
家の中では自分だけが特別ではない。


私たちの前では 普段どおりにふるまう以外の、どんな選択肢があっただろう。


実の母親を、そんなにも早く失うことの大きさが 私に分かるわけはない。



...けれどS君、あのときのあなたの「状態」を 想像することだけはできるようになったよ。
あなたの苦しみは、今の私の何万倍だったろうけど...。



あなたはあのとき 私に分かってもらいたかったんだね。



母を奪った「誰か」なのか 「何か」なのか...
得体の知れない大きな力に 抵抗することすら、許されず。
ぶつけてもぶつけても 手ごたえを感じる前に
自分に向かってまっすぐ落ちてくる 怒りと 悲しみ...。



あなたはあのとき 運命の被害者だった。



あなたにとっての加害者は...、
幼い自分を残して逝ってしまった母親だったかも知れない。
「大好きなお母さん」を連れ去ってしまった神様だったかも知れない。


自分の人生にもたらされた 特別大きくて 理不尽な仕打ちを
何かで埋めようとせずにはいられなかったんだね...。
埋めてもらいたいと 誰かに求めたかったんだね。


あなたは探し求めていたんだね。
自分を救い出してくれる人を。
傷口を繕ってくれる人を。


あなたは、あのとき 私に助けを求めたんだね。


どうしようもなく 誰かに 甘えたかったんだね。


分かってもらえないと 頭で分かっていても
分かってもらいたい、その思いを 諦めきれなかったんだね。


つらいよ さびしいよ って 訴えたかったんだね。
つらいんだね さびしいんだね って 寄り添ってほしかったんだね。


あのとき、私には、何も分かっていなかったけど
今だって、分かるなんて言えないけれど


今頃になって、思い出すんだ。あのときのあなたを...。


思い出すと 涙が溢れてくるんだ。



S君、あなたがもう一度、私の前に現れて 同じことをしても
私はまた「それとこれとは別!」って、叫ぶかも知れない。



だけど...





私は、こんなに傷ついているんだから...。
その場にいる誰ひとり 理解できない痛みを 耐えているんだから。
小さな心に 巨大な寂しさを抱えて 毎日 必死に耐えているんだから...。


特別大きな傷を受けたんだから
特別大きなやさしさを受けたいんだ...!
私にはそうしてもらう権利が あるんだもの...!


早く 早く 癒してほしい
早く 早く 埋めてほしい
絶対的な愛で 自分だけを 満たしてほしい


それでしか、救われないと...。そのくらい 苦しいんだと...。



そんな切迫感を 自分が抱えていたこと。



私も ようやく、気づけたよ。



被害者という立ち位置から離れないことで
誰かが、自分に報いてくれるんじゃないかと。


“私は「償われるべき立場の者」なんだ” と 主張することで
誰かが、特別な“ごほうび”をくれるんじゃないかと...。


思い込んでいた。


期待していた。


手を放せなかった。



今なら分かる。そんな人が身近にいるとしたら それは傷ついているから。
心が 泣いているから。
さびしくて、さびしくて やさしい 手がほしいから。



この苦しみのぜんぶを 包み込んでくれる 愛がほしかった。


自分だけを見てくれる存在 自分のすべてをゆるしてくれる存在がほしかった。


この痛みを もう感じないですむように...。


わがまま言うことで それを叶えようとしたあなたの心に 私自身を重ねることが...


今ならできるよ S君。




元気でいますか。
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by marca-mia | 2007-02-24 11:52 | 思うこと・自分


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