どうしてこんなに


marca~
marca!
おーい、聞こえないの?
ねえねえってば!

ハッ!としたのと ビクッ!としたのと同時だった。
目の前に、夫のくりくりっとした目がのぞいていた。


私「ああ、やっちゃった~!」

夫「どうしたんだよ~。」

私「私さぁ、本読んでるとその世界に没頭しちゃってさぁ、
  周りの声も何も聞こえなくなっちゃうの。
  子供のときからそうだったんだよぉ。
  私が本読んでる間に、周りはドンドン夕食の支度をしてるのにね。
  食卓から1mと離れてないのに、ぜんっぜん気づいてないの。
  何べん呼んでも気づかないって、よく怒られたんだぁ~。」

夫「へぇー、そうなんだぁ。君は想像力豊かな子供だったんだねぇ^^」


私の背中をぽんぽん、としながら夫が微笑んだ。


私「えー...?なぁにぃ?想像力...?」

...自分でもびっくりするくらい突然に、涙がドーッと溢れてきた。


私「えへっ、えへっ。」

夫「なんだー!?何を泣いてるんだよぉ^^;」

私「そんな風に褒められたの初めてだぁー。」

夫「えっ、なになに、何だ、そんなことでー?」

私「だってこういうとき、怒られてばっかりだったんだもん。
  私さ、いっつも家族の中じゃ変わり者扱いでさ、
  みんな私のこういうとこ、あきれてたんだよ。
  想像力豊かだって~。
  そんな風に褒めてもらって嬉しいよぉー。えへっ、えへっ。」

夫「ふぅーん、じゃあもう一回言ってあげようか?^^」

私「ほんとぉ、嬉しいよおー。えーん、ひっくひっく...!」



夫と暮らし始めて一年ほど経った頃だったかな。

こういうことが起こるたびに、自分で自分にびっくりしてしまう。


夫の声に気がついたとき、
反射的に身構えてしまったのはこういうわけだったのか。


「どうしよう!」
「またやっちゃった!」
「またお母さんを怒らせた!」
「お母さんに嫌われる!」
「また『しょうがない子ね!』って思われる!」


一瞬で幼い頃の自分にタイムスリップしていた。


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去年の秋、

夫を怒らせてしまい、暴れた夫が「出て行け!」と叫んだ。


私は、こんな私といる夫が可哀想に思えてきて、
それでも私が私でない状態を受け入れることができなくて、
こんな私が夫のそばに居ることが申し訳ないような気持ちになった。
少しでも早く、この人の前から姿を消してあげなくちゃ...!と思い、
すぐさまホテルを予約して、その日の晩から家を出た。


ああ...もう別居するしかないんだ、もう限界なんだ、と思った。


母に電話をかけて、泣きながら事情を説明した。

「わたしが悪いの、わたしが悪いの...!」と言いながら。


頭の隅っこの、妙に冷静な部分で
前にも同じ言葉を言ったときがあったなぁ...とぼんやり思いながら。



「ワタシガワルイノ、ワタシガワルイノ...!」



何で私、こんなときいつもこう言うんだろ、と、泣きながら思った。
母をがっかりさせるような事を打ち明けるときはいつも、そうだ。



ワタシガワルイノ...。



必死になって繰り返す。
いつも、そうだった。いつから...?思い出せないくらい前から。


母は親身になって話を聞いてくれた。
一緒に泣いてくれた。


ふっと楽になったとき気がついた。

私が夫に求めていた愛情の一部は、実は母から欲しかったものなのだと。

母から満たされなかったぶんも、夫に求めていたんだ。


今さらのように、打ち寄せてくる思いがあった。

ずっとずっと母に求め続けていたこと。
この歳になっても、結婚してすっかり自立したつもりでいても、ずっとずっと欲しかったもの...。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


年が明け、お正月に帰省したとき、
私は むしょうに母にひざまくらして欲しくなった。


...なんでひざまくらなんだろ?


あーそうか...。
私にとって、母のぬくもりの思い出は、ひざまくら...なんだ。

それも、耳掃除してもらうときのひざまくらだったり、
幼い頃から体の弱かった私が、病院からの帰りにタクシーの後ろの席で
「marcaちゃん横になりなさい」と言われて頭をのせた、母のひざまくら。


何の理由もなく母に甘えて、抱いてもらった思い出がないから。


ひざまくらしてもらうための正当な理由がくっついたときの、ひざまくら。
私から「して」とは言えず、
母から誘ってもらえるのを、不安な気持ちで待ってた、ひざまくら。


いつも耳掃除のときは、
私は姉妹の中でもあんまり耳垢がたまらないほうで、
「あら、marcaちゃんはぜんぜんたまってないね~。はい、おしまい。」ですぐ終わっちゃってた。
母が耳かきの綿帽子でサササッと耳の周りをはらって、
しあげにフッ!と息を吹きかけるのが、嫌がる振りしながら好きだった。



...そんな風に思い出していたら。


母が私の心を読んだかのように、
「marcaちゃん、帰るまででいいから、お母さんの耳掃除してくれる?」と言った。


母「お父さんはさぁー下手なのよ。
  ○○子(妹)が来たとき頼もうと思うんだけどすぐ忘れちゃって。」

私「うん、いいよぉ。」


って言いながら、帰省するまで、甥っ子たちの世話でドタバタして、
結局してあげるのを忘れてしまった。



東京へ帰ってから電話した。


私「お母さんにさー、耳掃除してあげるって言ってて忘れちゃったね、ごめんねー。」

母「あー忙しかったもんね。お母さんも忘れてたわ。いいよいいよ。」




ワタシネ、オカアサンニ、ヒザマクラシテホシカッタノ...。
ワタシネ、オカアサンノ、ヒザマクラガスキナノ...。


って言いたかったけど、言えなかった。


何だかね。
私がそんなこと思ってるなんて、
突然言ったらお母さんに悪いみたいで...ね。



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どうしてこんなにあなたのしたことが

どうしてこんなにあなたの言葉が

どうしてこんなにあなたのくれたものが


私の心を今でもふい、と揺さぶるのだろう。


どうしてこんなにも、あなたのことが気になるんだろう。


幼い頃も今でも
母に対して「大好き!」という感情を持ったことがない。


それなのに。

どうしてこんなにも切なくなるんだろう。



幼い頃も今でも
「私があなたに」与えなければいけないとばかり思ってきた。


私という子供を持てたことを、あなたが誇りに思えるように

お母さんを幸せにしなくちゃいけないと思っていた。

それなのにがっかりさせてしまう自分が嫌だった。



いつも自分のことでいっぱいいっぱいのあなたに

遠くから視線で追いかける私がただただ感じていた思いは...。




お母さん...。






どうして、私はお母さんの子なんだろう...?

どうしてお母さんは私のお母さんなんだろう...。

神様はどうして

こんなにお母さんの気に入らないことしかできない私をお母さんの子供にしたの?

親子なのに。

神様は、親子の組み合わせを選ぶとき、

お母さんが喜ぶような子を お母さんの子供にすれば良かったのに。

そうすれば、お母さんはあんなにイライラしなくてすむのに...。

どうして私みたいな子を、お母さんの子供にしたの?

どうして私みたいな子が、お母さんの子供で生まれてきたの?

なんでそんなことしたの?ねぇ...。
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by marca-mia | 2005-09-03 01:25 | 思うこと・自分


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